TBL VOL.174 大阪・関西万博で見つけた世界のファブリック【後編】

皆さんこんにちは。インテリアコーディネーター&窓装飾プランナーのあまんだ・ら・かまんだらです。
前回に引き続き、今回も『大阪・関西万博』の海外パビリオンで出会った「ファブリック」をご紹介します。
 
各国のパビリオンの展示の中には、織物や生地など繊維(ファブリック)に関わるものが沢山ありました。
ただの名産品?とほとんどの人が見過ごしてしまいそうな展示のファブリック。
実はそこにその国の誇りやアイデンティティ、歴史など大切なメッセージが込められていました。
 
『EXPO2025 大阪・関西万博』で見つけた様々な「ファブリック」【後編】。
今回は中央アジアから東へ、アフリカ・南米、ヨーロッパのファブリックをご紹介します!
 

 

「中央アジア」のファブリック

日本から始めて、半分の時点で、やっとアジアの真ん中にたどり着きました
アジア大陸広い….
では、レッツゴー♪

トルクメニスタン館で見つけたファブリック

国土の85%は砂漠、西はカスピ海に面する中央アジアにあるトルクメニスタン。
埋蔵量世界第4位の天然ガス、毛並みの美しいアハルテケ馬とや手織りのトルクメン絨毯が有名だそうです。
 
 

 
トルクメニスタンの国旗にも主要な5部族独自の模様が描かれています。
国民のほとんどはイスラム教ということで、トルクメン絨毯は幾何学模様が基本。
各部族で固有の幾何学模様があり、絨毯のデザインでその部族の文化や歴史、誇りを伝えているそうです。
またトルクメン絨毯に赤系が多いのは「魔除け」の意味合いがあるとのこと。羊毛・綿・シルクで織られているそうです。
最後のコーナーでは、馬と犬が描かれた大きな絨毯が飾られていました。
 

 
【パビリオン情報】
貴重なお国柄が体感できると人気です。3階は広めのレストランで夜は建物の横の液晶ディスプレイがきれいです。

「西アジア」のファブリック

西アジア、いわゆる中東アジアです。
「中東」という言葉自体には決まりがないそうで、19~20世紀初めの欧米諸国がアジアを「極東(ファー・イースト)」「近東(ニア・イースト)」「中東(ミドル・イースト)」と分けて呼ぶようになったから。
国連の地域区分など国際的な表現としては「西アジア」が使われるとのこと….らしいです。

アラブ首長国連邦(UAE)館で見つけたファブリック

UAEで紹介されていたファブリックは、ウールのラグ。白と黒で色合いやデザイン的にはモロッカンのベニワレンに似ています。
織機が置かれていて開幕日にはヒジャブ姿の女性が実際に織っているところを見ることができました。
 

 
余談ですが、アラブ諸国では民族衣装のトーブに使う日本製の高級生地が大人気とのこと。
少し前に「白って200色あんねん!」という発言が話題になりましたが、アラブ社会ではある意味常識。
国や地域によって人気の白が違うものの、トーブに使われる白も200色以上あるそうです。
以前、繊維メーカーの工場見学に伺った際、白色のトーブの生地がずらっと並んだ見本帳を見せていただいたことがあります。
織り方の違いは分かるものの、私には微妙な白の色の違いは殆ど見分けがつきませんでした。
UAE館で「UAEでは最高気温が50度を超す」と教えてくれたトーブ姿のスタッフの方も「お気に入りの日本メーカー?もちろん、ありますよ!」と話してくれました。
遮熱やクール涼感、吸湿速乾とか、機能付きの生地もあるのでしょうね。
 

 
【パビリオン情報】
アラブ首長国連邦(UAE)を象徴するナツメヤシの葉の軸を使った90本の柱が屋内に高くそびえ立つパビリオン。
まさに「台地から天空へ」というだけあって大迫力。
中ではUAEの歴史や宇宙開発などの最先端技術まで映像で紹介されており、時折歌がはじまることも。
広くて出入りしやすく、異国情緒が堪能できておすすめです。
UAEをはじめ、中東の国々は贅沢なパビリオンがホント多いです!
 

トルコ館で見つけたファブリック

トルコといえば、伝統的な織物・トルコ絨毯。赤や青が基調で、動物や植物といった自然のモチーフが描かれたデザインが多く、精密な美しさが魅力です。
パビリオン内にはトルコ絨毯の織機が展示されていましたが、見本を忠実に織物で再現するため、微妙な色の違いの糸が沢山並んでいました。
こんなに細かい作業で手間ひまかけて作られるのですから、高くなるのも当然ですね。
 
▼トルコ絨毯制作の実演が見られることもあるそうです
 

 

【パビリオン情報】
入口を入るとインパクトのある顔と月をイメージしたインスタレーション。カッパドキアを模したフォトスポットも。
 

 
トルコを紹介する映像を見る際に持たれていた壁が実は、日本との友好のきっかけとなったエルトゥールル号を模したインスタレーションだと後日知りました。
ちなみにその内部が売店コーナーになっています。もちろんトルコ絨毯もショップで売られていました。
手作業で織り上げるためとってもお高いイメージのトルコ絨毯。おそらく会場外のお店よりはさらに高いと思われますが、交渉されている方はいらっしゃいました。
触り心地も良く、デザインも素敵。やはり、素晴らしいものを見ると欲しくなってしまうのでしょうね。
 
▼可愛い食器の他、クッションも売られていました。

「アフリカ」のファブリック

アフリカや南米はコモンと呼ばれる集合パビリオンに出店している国が多く、各国のブースが小さいため展示しているファブリックも情報が少なめでした。
そのため、ファブリック推しの国や特に気になった国をピックアップしました。

セネガル館で見つけたファブリック

「Dal Léne ak Diamm」は「平和とともにようこそ」の意味でセネガルの歓迎の表現だそうです。

西アフリカの国、セネガル。
ヘビ革やワニ革製品の他、コットンのクッションカバーやリサイクル繊維の生地も紹介されていました。
伝統的な織物だけでなく、世界中で今の時代に合わせた新しいファブリックも続々と生まれているんですね。
 

 

 
【パビリオン情報】
中に入ると天井付近にセネガルの光と影である2つの世界遺産、貴重な野鳥の繁殖地であるジュッジ鳥類国立公園(世界遺産登録名は「ジュッジ国立鳥類保護区」)と首都 ダカール の沖合いにある「ゴレ島」の紹介。
特に最後のゴレ島のムービーに込められたメッセージ。英語のナレーションの方が私には刺さりました。
色々と考えさせられる万博です。
 

 
ジュッジ鳥類国立公園には、300万羽以上の渡り鳥がサハラ砂漠を越えて飛んでくるそうです。
「人はフランスにバケーションに行くが、鳥たちはここへバケーションに来る」と言われているほど。その光景は壮観でしょうね。
 

ブルファナキャソ館で見つけたファブリック

ブルキナファソのブースには、国民的衣装であるファソ・ダンファニ(Faso danfani:祖国の織腰布※説明板より)に使われる木綿の糸と反物が置かれていました。
 

 

 
後に「アフリカのチェ・ゲバラ」と呼ばれこの国の英雄でもあるトマ・サンカラ大統領は在任中、伝統的な衣装(ファソ・ダンファニや女性用の仕事着であるココ・ドゥンダ)の着用を推奨し様々な施策を行いました。
それらが後の地産地消や産業振興、女性の社会進出等につながり、今ではファソ・ダンファニやココ・ドゥンダは愛国の象徴となっているそうです。
 

 

「南米」のファブリック

チリ館で見つけたファブリック

チリ館入口にさりげなくモアイ像が可愛い

 
チリの先住民族・マプチェ族の伝統的な手織物「Makün(マクン)」で覆われたテントの様なインスタレーションが象徴のパビリオン。
マクンはマプチェ族の女性200人で織り上げたそうで、その柱や階段はチリの松の木で、船便で1カ月半かけてチリから運んできたそうです。
 

木肌が美しい柱は松の木の香りがほんのりとして、マクンの菱形柄や赤・黒・緑といった色合いが日本の畳縁にも似ていることも相まって、日本の家みたいに落ち着く雰囲気でした。
 
ちなみに松の柱といっても単なる無垢の柱ではなく、こちらはハイテクなCLT材(Cross Laminated Timber=直交集成板)。
CLT材(直交集成板)と聞くと、インテリアコーディネーターの試験勉強で「CLT材と集成材の違い」について勉強した記憶がよみがえりました。
一言で木材と言っても、殆ど自然なままの無垢材や、何層にも重ねて接着されたCLT材や集成材、合板など色々あります。
集成材や合板は、繊維方向が平行で揃っているのですが、CLT材は繊維方向を直交になるように重ね合わせるので、より強度がアップするのです。
まだ新しい木材なのでちょっとお高めですが、集成材や合板のいいとこどりなので壁にも床にも使えて加工しやすく、湿気にも強くて強い優れものの木材です。
このCLT材だけでなく、万博会場では間伐材が原料のストランドボードなど色々なサステナブルな木材があちこちで使われているので個人的にはすごく勉強になります。
木材はテーマからは外れてしまいますね….マニアックすぎて申し訳ありません。
 

 
また「マクン」はマプチェ語で「マント」という意味で、現地では民族衣装として使われるそうです。
ウールでできていて「触ってもいいですよ!」と言われて遠慮なく手でスリスリしてみました。
柔らかさを表現して「チクチクしないねー」という人がいたのですが、日本語を勉強中という女性スタッフの方は「チクチク」という表現が面白いとメモしていました。
 
模様には意味があり、イカットは一番星、こちらはクモ、ジグザグは海を表していて、子孫繁栄など幸せへの祈りが込められているそうです。
チリといえば有名なのがインカ帝国。
その時代に宇宙観が重要だったことは有名ですが、このマクンにも宇宙観が込められているそうです。
アフリカ・モロッコのニワレンもジグザグが川など「水」を表していたり、近いデザインが多いので「チリの人もモロッコの人も始りはつながっているんでしょうね」と英語と片言のスペイン語で伝えました。
すると「アフリカからアジアや日本、ミクロネシア、南米へと人々は旅してきた、みんな同じ地球人ですから」と笑顔が返ってきました。
「人類みな兄弟」これぞ万博、地球の裏側まで心が通じた気がして嬉しかったです。
 
【パビリオン情報】
夕方の時間?にタイミングが良ければ、チリワインを楽しめるかも。
お酒の好きな方、要チェックです。

グアテマラ館で見つけたファブリック

グアテマラは住民の約4割がマヤ系先住民族という中央アメリカの国。
先住民族にはそれぞれに独自の文化や言語があり、民族衣装もそれぞれ独自のデザインがあるそうです。
 
▲画像下の青いのと白いのはグアテマラのウールポンチョ
 
▲植物や動物、身近な家畜がモチーフに
 
▲配色が美しいお祭りの衣装
 
スタッフの人の話では「彼らは芸術家ではないので、民族の誇りでもある織物を簡単に売ったりはしない。」とのこと。
色やデザインだけでなく、織り方や染め方といった技法など、その全てに意味があるグアテマラの織物。
マヤの伝統やアイデンティティ、誇りを後世に伝えるとても大切な存在なのですね。
 
スタッフの人からは「グアテマラの先住民族のファブリックについて、詳しく知りたいのなら…」イクスチェル民族服博物館のWEBサイトを教えてもらいました。
イクスチェル民族服博物館: https://museoixchel.org/en/
こちらは私立大学のキャンパス内にある博物館で、先住民族の織物や衣装、宝石などの装飾品のコレクションを展示しているそうです。
マヤの伝統や歴史をさらに深堀りされたい方は、ぜひごらんください

ペルー館で見つけたファブリック

ナスカの地上絵っぽいペールのロゴが可愛い

マチュピチュ遺跡やナスカの地上絵で有名なペルー。
こちらに展示されていたファブリックは、民族衣装でペルーの若手デザイナーの作品とのこと。
伝統と現代の融合。新しい価値観を生み出していくのが伝統を守っていくことにもなるんでしょうね。
 

 

 
ペルー館の展示で私が注目したのが「キープ(結縄)」と呼ばれるインカ帝国やペルー・アンデス地方で使われた記録ツールの縄。
「キープ」の縄の結び目やその位置が数を表し、縄の太さや色、結び目角度やねじる方向でそれぞれ意味があるそうです。
インカの役人が人口統計や暦、トウモロコシや豆類など農作物の収穫量など、重要な情報を記録するために用いられ、各地でまとめられたキープは飛脚が運んで届けたと言われています。
 

 
これって昔のコンピューターのパンチカードや紙テープみたいなもの?!
文字や絵ではなく、媒体として縄を使うとは、インカ帝国すごすぎる!!
ちなみにキープの素材は綿が多く、アルパカやリャマなどアンデスに住む動物の毛のものもあり、動物の毛の方が発色が良く長持ちするそうです。
 

「ヨーロッパ」のファブリック

イタリア館で見つけたファブリック

世界的な至宝をはるばる日本まで持ってきたイタリア館。
それも一つではなく、アートや歴史に詳しくない人でも知っているビッグネームのお宝ばかり。
展示物ではファブリック関連はなかったものの、本物へのこだわりは売店のグッズにも表れていました。
 

 

 
売店ではイタリアのピュアメリノウールを使ったコースターや緑白赤3色(トリコローレ)に染められたウールの入ったオブジェが売られていました。
それらを作っているのは、1861年創業の老舗メーカー「Bottoli(ボットリ)」社。
イタリアの中でも数少ない、原毛の選別からフィニシングまでを行う一貫工場を持つメーカーだそうです。
思わず値札を二度見してしまいましたが、高級スーツに使われる生地やウールなのでその分を含めての価格なんでしょうね。
 

 
【パビリオン情報】
レオナルドダヴィンチの直筆原稿、ファルネーゼのアトラス像、ミケランジェロのキリストの復活…
日本が稲作をはじめた時代にこんな素晴らしい芸術品が作られていたなんて!
さらに、さりげなくメンデルの法則で有名なあのメンデルの論文まで展示されていました。
ただしこちらは、関西万博で7月23・24日にチェコ館で限定公開されていた本物ではなく精密な複製とのこと。
後日チェコ館で展示される予定だそうですが詳しい説明がなかったため、イタリア館に展示されていた理由は謎のままでした。
世界的な超お宝を至近距離で見ることができるので、数時間待っても見る価値大です!!
 
▼レオナルドダヴィンチの直筆!
 
▼ドレープや筋肉の描写が美しいアトラス像
 
屋上にはアート作品も置かれている素敵な「イタリア庭園」があるのですが、訪問時は35度を超える炎天下のため私たち以外には誰もいませんでした。
本来は予約なしで利用できるイタリアンのレストランも、この日は団体予約があるため閉まっていました。
仕切りの幕体はロゴ入りのレザーの売店コーナーは当初もっと商品があったようですが、殆ど売れてしまったのか種類は少なかったです。
売約済でしたが60万のカメオの置物があったり、展示物だけでなくグッズや備品にも本気度が違うイタリア館でした。
パビリオン横のイタリアンジェラートのお店。結構並びますが、期間限定で日本の旬のフルーツを使ったジェラートがおいしそうでした。
 

ポルトガル館で見つけたファブリック

ポルトガル館では特にファブリックの展示はなかったのですが、パビリオンの入口にあったタペストリーがとても素敵だったのでご紹介します。
 
こちらの作品はポルトガルの若手アーティスト、ヴァネッサ・バラガォンさんの「サンゴ礁アートタペストリー」という作品。
バラガォンさんは、リスボン大学でファッションデザインを学ばれたそうで、海洋生物や自然からインスピレーションを得たものや、海洋保護をテーマにした作品を生産後に廃棄される予定の繊維を材料として使って制作されています。
ポルトガル館で展示されているこちらの作品も、色使いやデザインの美しさの中にサステナビリティや環境保護のメッセージが込められているとのこと。
万博では沢山のアートを見ましたが、このモコモコのデザインは特に印象的で強く記憶に残っています。
 
【パビリオン情報】
海をテーマにしたポルトガル館はロープを使った外観が特徴的。
中で見られる没入感のある映像が素晴らしいのですが、夜になると2階のバルコニーでスタッフの方たちによる演奏とダンスが始まります。
本場のエッグタルトも美味しいと人気です。
 
 


 
 
まだまだ紹介したいところですが、万博のファブリック【後編】は〆ます、といいつつ
実は先週、未訪問だったパビリオンを訪れたのですが、そこがこのブログのテーマそのものの所でした。
そんな大物が抜けているなんてまさに「画竜点睛を欠く」じゃないか….
時間の関係でスタッフの方に質問できなかったので、再訪問して【特別編】としてご紹介したいと思います。
 
因みに私、万博のパビリオンはコンプリートまであと3つだけなのですが、予約争奪戦の所ばかりなので難しいかも….
人気のアメリカやイタリアにも行きましたが、私の推し海外パビリオンはハンガリーとサウジアラビア。
ハンガリーは現地の民謡を歌って踊ってくれるのですが、美しい歌声に最高に心が癒されて感動しました。
サウジアラビアは贅沢なつくりの建物でアラビア感が堪能できます。こちらは夜がおすすめです。気になる方はぜひ。
建物が五線譜になっているオーストラリア館や、漢詩の描かれた中国館、円形の輪が集まったドイツ館、ハスの花の形のインド館など、個性豊かなパビリオンの建物のデザインを見るだけでも楽しいです。
特に、ビール好き、コーヒー好きの方には、世界中のビール、コーヒーの飲み比べがおすすめです。
 
ほんと世界は広い。まだまだ知らないことがいっぱいです。
陸だけでなく、海にもシルクロードがあるそうですが、織物やそのデザインに人々の願いを込めるというのは万国共通なんだなぁとこの万博で実感しました。
残念ながら当店推しのモロッコなど一部参加していない国もありますが、万博会場だけで世界旅行に行った気分が味わえます。
様々な国の文化を知ることで、その国のインテリアがもっと楽しめるかも!?
 
当びっくりカーテンや姉妹店のラグモアでは、世界中から様々な商品を直輸入しています。
実際にスタッフが現地に赴き探し出したものをはじめ、インスパイアされたイメージをデザインに取り込んだオリジナルのカーテンなどなど、沢山の商品をご用意しています。
日常に新しいエッセンスを採り入れてみませんか?
気になる商品や興味のある国のインテリアコーデについて、ご相談はお気軽に。
 
あまんだ・ら・かまんだら でした。
 
 
■EXPO 2025 大阪・関西万博で見つけた世界のファブリック <TBLブログ3部作>